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路傍の晶

第10回

江戸手打ちそば教室 伊藤さん

もうすぐ喜寿を迎える伊藤さん。
まだまだ元気いっぱいだ
もうすぐ喜寿を迎える伊藤さん。
まだまだ元気いっぱいだ

きっかけは、「娘に食べさせたい」という思いだった。知人の誘いで初めてそば教室に行った彼は、思いがけずそば打ちに魅せられる。そして思った。「アメリカで暮らす娘の目の前で打ってやりたい」と。


 伊藤さんは40年に渡り、製鉄業界に携わってきた。社長を務める大手製鉄企業の協力会社では、おもに鉄筋を製造した。そんな彼が「そば打ち」と出合い、第2の人生を歩き始めたのは、66歳のときである。


 そば打ちの魅力について、ときに笑いを交えながら伊藤さんは話す。
「自分で作る、その達成感に惹かれました。また完成した手作りのそばをひとにあげても喜んでもらえるし、自分でも食べられますしね。しかもそばには他の穀物にはない、脳梗塞や脳卒中の予防に役立つ成分が入っています。ヘルシーだし、毎日打っているうちに楽しくなって、のめりこみました」

自宅を改装した教室。
壁には使い込まれた麺棒が並ぶ
自宅を改装した教室。
壁には使い込まれた麺棒が並ぶ

その後、伊藤さんはプロコースを卒業、免状を取得し、通っていた教室の講師を頼まれるまでになる。1年余りプロコースの講師を務めたのち、独立して小岩に自分の教室を立ち上げたのは、1999年6月のことだ。自宅を改装して教える背景には、「奥様方でも家庭で本格的なそばが打てる」という思いが込められている。


 初めて習う生徒のために、伊藤さんはそばの実からそば粉ができるまでの過程を現物と図解を織り交ぜながら説明し、見本打ちをしてみせる。そして生徒に挑戦してもらい、ゆで方を教え試食まで行なうというのだから、初めての授業が3時間余りかかるのも納得がいくというものだ。その過程を経た彼の指導は、「親切で丁寧」という評判が絶えない。教え子は老若男女を問わず、なかには新幹線で通う生徒もいるという。

伊藤さんの指導は「丁寧で親身」と
評判を集めている
伊藤さんの指導は「丁寧で親身」と
評判を集めている

「趣味が高じて教室を開くまでになりました」独立してからの8年間を振り返り、笑顔を見せる。しかし活動の場は小岩の教室だけに止まらない。弟子を伴い全国各地へ赴き、そばを打って食べてもらう。足を延ばす場所はさまざまだ。会社や地方自治体、ときには老人ホームの慰問も行なっている。また年末になると、年越しそばを作る出張教室を毎年、ホテルニューオータニで開いてもいる。さらに雑誌の取材を受け、テレビにも出演するなど、活躍の場は広がるばかりだ。


「みなさんの応援があってこそ、ですね」伊藤さんは目を細める。汁の用意をはじめ、教室をサポートをする妻の文子さんも、「応援に来てくださる弟子の方や生徒さんたち皆さんからパワーをいただいてます。だからこうして、70を過ぎた私たちが頑張っていられるんです」と笑った。


 娘に食べさせたいと始めた趣味が、いまや全国津々浦々の人々に求められるまでになった。パワーを与えているのは伊藤さん夫婦のほうだと、思って止まない。






取材・文◎隈元大吾