路傍の晶
和モダン雑貨 Necco 八木さん
「日本人なら誰しも、きっとどこかに“和の心”を抱いていると思うんですよね」
自身の店に「Necco」と名付けた理由を、八木さんはそう話した。どんなに時代が移り変わろうとも、たとえ日常に外国の品が溢れようが、日本人の根底は揺るがないはずだ。畳よりもフローリングが増えているのならば、それに合うモダンな和雑貨を提案したい――そんな思いが、店主の心の根っこにはある。
そもそも八木さんが雑貨自体に興味を抱くようになったのは、大学卒業後10年ちかく世話になったレンタルビデオショップがきっかけだった。ビデオのみならず、UFOキャッチャーやコンピューターゲームなどアミューズメントスペースも充実させる店で、彼は正社員となり、ゲーム機の景品の仕入れを任されるようになる。こうして景品となるさまざまな雑貨に触れるうちに心惹かれるようになり、「自分の店を持ちたい」と思いを募らせていくのだった。社員教育に熱心な店の姿勢にも共感を抱いた八木さんは、以降およそ5年間を正社員として過ごし、商売の基本を肌で吸収した。
独立を期してからはより深く雑貨の世界を学ぶべく、首都圏でも人気の高い大手雑貨店に籍を移した。このとき、現代風のデザインが施された手拭いや風呂敷などの斬新な商品と出合う。八木さんは直感した。「モダンな和雑貨をやろう」。一年半の勤務のあいだにコンセプトを見出し、現在の店を開くまでに至ったのである。
今年3月にオープンしたばかりの店内には、風呂敷やバッグなどのファッション雑貨からキッチンやデスク周りの小物まで、多種多様の雑貨が取り揃えられている。無論、そのいずれもが和を基調とした品々で、八木さん自身のセレクトによるものだ。さらに店の壁を彩っているのは、都内の芸術大学に勤め、染織を専門とする妻の道代さんによる作品である。個性的な色使いが注目を浴び、専門誌にも採り上げられたほどの腕前だ。
「ギャラリー兼雑貨ショップというのが構想のひとつだったんです」と八木さんは明かす。
「ありがたいもので、お客さんの反応はいいですね。でも始めたばかりですから、まだまだこれからです。いまのテイストを大切にして、じっくりと腰を据えてやっていきたい」
あるとき、こんな出来事があった。開業間もない4月のことだ。道代さんが別の場所で開いた個展に、とある面識のない人物が訪れたという。訊けば、店で行なっていた告知を目にしてわざわざ足を運んでくれたのだそうだ。
「とてもうれしかったですね。お客さんといい繋がりができていることを実感しました。たとえ買い物をしてくれなくても、『この店いいな』って思っていただけたなら、このうえないです」
八木さんにとって、西葛西は10代のころからの馴染み深い土地だという。オープンしてわずか2ヶ月、しかし新たな和雑貨の店は、ゆっくりとだが着実に、その根を広げている。
取材・文◎隈元大吾