下町酒場はしご酒~江戸川のディープな居酒屋巡り
江戸川区が誇る大衆酒場遺産
都営新宿線一之江駅から歩くこと約8分、今井街道沿いに(大衆酒場カネス)がある。
創業は昭和7年(1932年)。
紺と赤の暖簾が間口いっぱいに掲げられた佇まいからして、いかにも昭和テイスト満載の酒場だ。
暖簾をくぐれば、そこは映画のセットのような昔ながらの空間。
向かって右手にテーブル席がふたつ、左手に大きなコの字カウンターがあり、その内側で煮込みの大鍋がトロトロと火にかけられている。
居酒屋の定番はモツ「ホルモン」煮込みだが、野菜だこんにゃくだと余計なものが大げさだ。
モツ好きのモツ煮込みはシンプルにモツだけでいい。
と、かねがね思っていて、一之江の(大衆酒場カネス)に好品をみつけた。
丸皿のおつゆにモツだけがじつにうまい。
わけは新鮮なモツにあり。
じっくり煮込んだモツ煮込みのうまさに、ああモツ煮込みはこれでいいんだ、ほかに何もいらないんだと深く納得する当店名物のモツ煮込み。
お代わりしたい。
せっせと働く女将さんにオヤジは何かひとつ声をかけ大人気。
世知辛くなったこの頃に、こういう店が貴重なことがよくわかる。
東京都の東側は居酒屋の宝庫。
本来下町は浅草・下谷・神田・銀座・日本橋・京橋・本所・深川などの地域をいう。
「下町 育ち」⇔山の手。
しかし23区東部の、葛飾区、足立区、江戸川区など、元々は江戸近郊の農村部で、戦後になって急速に宅地化が進められた地域もまた「下町」と呼ばれる。
江戸川区はさしずめ、大衆酒場のテーマパークといえよう。
地酒の専門店を探すもよし、海鮮自慢の店を訪ねるのもいい。
しかし、手当たり次第に飲み歩こうとすると目移りしてしまう。
こういう場合は「古い酒場」をキーワードに選ぶようにしている。
古いということは客が途絶えず続いてきたわけで、それは良心的な店だからだろう。
フリの客より近所に住む人を大切にし、あこぎな商売はできない。
また肝心なのは、古い店には長年かけて主人と客が作りあげてきた独特の雰囲気があることだ。
すすけた店内は新築にないくつろぎをもたらす。
その濃密な〈時の堆積〉こそが酒場の宝であり、こればかりはいくら金をかけても、有名建築家でもつくるわけにはいかないのである。
ここ(大衆酒場カネス)は、そんな古い酒場の良いところを全部持っていた。
↑名物モツ煮込みはシンプルにモツのみ。江戸川三大モツ煮込みのひとつ
↑湯豆腐は簡単なだけに味わい深く、飽きない
↑居酒屋とは酒と肴を味わうだけではなく、その空間を味わうものである
酒場空間には長年かけて築いた主人と客の魂が宿るのだ
↑改装せずに続けてきたことにこの店の価値がある
店名 | 大衆酒場カネス |
住所 | 東京都江戸川区一之江6-19-6 |
営業時間 | 16:30~21:00・[日・祝]14:00~22:00 |
定休日 | 水曜 |
連絡先 | 03-3651-0884 |
関連サイト | なし |
取材日 | 2020年 |
◆この記事を書いたひと
酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦
東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規7000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。
ブログ「日本の酒場をゆく」↓
※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。
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