路傍の晶
トータルビューティーサロン あんじゅ 店長 岡部さん
生まれながらの敏感肌に悩まされていた。白い粉を吹くなど、肌の弱さは冬になると殊更に顕著だった。皮膚に合うスキンクリームもなかなか見つからない。だが怪我の功名というべきか、いまの仕事に就いてからは、肌にまつわる自身の苦労が存分に役立っているようだ。
岡部さんがトータルビューティーサロン「あんじゅ」を開いたのは、2002年に遡る。もともとは婦人洋品店を営んでいたが、知人の紹介もあり、エステサロンの経営にも携わるようになった。そこでシルクとおなじ成分を含むローションが自身の肌に合うことを知り、化粧品や美顔マッサージにより興味を抱くようになったという。さらにその後、取り引きしていたメーカーに入り化粧品について学んだことも、独立の追い風となった。
「ようやく見つけた自分の肌に合う化粧品を、べつの商品に替えるのは、女性にとっては大変なことなんです」岡部さんはいう。
「女性の肌は敏感ですから。商売ありきで商品を勧めても、肌に合わなければトラブルにもなります。ですから私としては、お客様が使用されている化粧品を違うものに無理に替えることなく、美顔の施術だけを基本にやっています。私自身、肌が弱いものですから、自分で数ヶ月試してみて問題のなかった化粧品をお店では使っています」
厭な思いを経験しているケースが多いのだと、彼は嘆く。実際、初めて店を訪れる利用者のほとんどが、「美顔マッサージは単なるお試しではないのか」「施術後に多額のローンを組まされるのではないか」といった警戒心を抱いているのだという。
だが思えば、彼には洋品店を営んでいた当時から大切にしている信念があった。それは、つねに利用者の立場になって考えるという姿勢である。
「とにかくお客様に厭な思いをしてほしくないんですよ。洋服もフィットするかイメージして、似合うと思えるものだけをお勧めした。いまもお店に来て気持ちよくリラックスして、綺麗になってもらえればいいという発想でやっています。ですから、化粧品も自信のある商品しか勧めないし、販売することは滅多にありません。美顔マッサージによって綺麗に変身していく様が手に取るように判ることが、私の楽しみですね」
エステだけが仕事ではないと、岡部さんは言いきる。すなわち、流れ作業ではなく最初から最後まで自ら手を施し、コミュニケーションを大事にして、ともに美を追求していく。
「気持ちは手から伝わるものですよ」丁寧な対話によって信頼を築いた彼のもとには、女性から男性まで、なかには週2回、足しげく通う利用者もいるという。
取材・文◎隈元大吾