下町酒場はしご酒~江戸川のディープな居酒屋巡り
江戸川区と山形県鶴岡市は友好都市
東京都江戸川区と山形県鶴岡市が【友好都市】であることはご存知だろうか?
現在、江戸川区と鶴岡市は区内で開催される行事に鶴岡市民が参加したり、江戸川区民が鶴岡市を訪問するなど、芸術や産業などさまざまな分野で交流が行われているのだ。私は鶴岡の生んだ作家・藤沢周平の大ファンで、作品に登場する庄内の食べ物に憧れももっていて、何度も鶴岡を訪ねた。
よーし、旅に出るか。行き先は冬の鶴岡だ。
東京から鶴岡はとても遠く、東京から上越新幹線で新潟まで、新潟から特急いなほ号で約2時間。
特急いなほ号の窓の外に目をやると広々とした庄内平野になった。夕焼けが赤く染める田園の先は日本海だろう。ここが海坂藩だ。
予約したホテルに荷物を置き、早速居酒屋巡りに出た。仕事しないとな。
日がおちるとかなり冷える。鶴岡の飲み屋街、昭和通りは端から端まで歩いても大した距離はなく人の気配がない。
小綺麗な居酒屋の(庄内ざっこ)のカウンターに腰を下ろした。
「あんたどこから来たの?」
隣の客が声をかけた。
「東京から鶴岡に酒を飲みに」
「ようきたのう、もっけだのう」
鶴岡言葉はその客の奥さん。
「もっけだのう」は「ありがとう」
燗酒をきゅーっと一杯。淡い紅色のノドグロがおいしい。
刺身で食べるのは久しぶりだ。
庄内浜の魚は日本一という隣の客によると、鶴岡では釣りは武士の鍛練で、長い四間竿を担いで浜まで四里五里の道を夜中に山越えして走り、体力胆力を鍛える。狙いはクロダイ。
「釣果を、今日の御勝負は?と言うのです。いいでしょう」
古武士月形龍之介に似たその人は、釣りの話ができなくては鶴岡では一人前といえんですよ、と目を細める。
私は鶴岡、いや海坂藩の気風を知りたい。その地を知るには古い酒場に入るのが一番だ。
「鶴岡のいちばん古い酒場はどこですか」
「いな舟でねがのう」
カウンターで話を聞いていた人が答えた。
隣の客によると市の総務部長で、「わしの釣りの弟子」だそうだ。
その店は鶴岡に来ると必ず訪ねる店だ。
店を出て(いな舟)のカウンターに座った。
「いらっしゃいませ、ようきたのう、今日の鶴岡はなんでしのう」
「仕事……いやまあ、ごにょごにょ」
女将さんとは顔馴染みだ。
適当にごまかして品書きを見る。
寒い冬と暑い夏のある庄内平野は冬の寒鱈汁、春の孟宗竹・山菜、夏のだだちゃ豆・岩牡蠣、秋の口細カレイ・温海かぶなど、一年中、順繰りに食べるものがあるから、ほんの一、二週間の旬しか食べず、いつまでも店に出すと「まだ出しとるのか」と叱られるそうだ。
頼んだ平目の刺身が新鮮で身がよく締まりとてもおいしい。
満足して流し込む「庄内誉」の冷やがうまい。
「よう召しあがりましたのう」
鶴岡独特の語尾「のう」がのどかな気分をつくる。
庄内は酒井家を藩主として250年の長きにわたり、譜代大名の江戸文化、北前船の上方文化、地元の東北文化が渾然一体になって栄えた。
店を出て馴染みの古いバー(89)へ向かったが、真っ暗でもう営業している雰囲気がない。ここは高齢の女性バーテンダーが一人で営む東北を代表する名バーだ。がっかりして歩いてゆくと銀座通りに和風モダンのバー(紫蘭)がある。ここでいいや。入ってみよう。
「いらっしゃいませ」
カウンターに立つのは女性バーテンダー。
「レッドアイを」「かしこまりました」
最初の一杯はビールとトマトジュースのカクテル「レッドアイ」。
まずグラスにビールを入れて泡が落ちつくのを待ち、トマトジュースを注ぎ入れる。
しばし観賞後、口へ。
トマトの酸味の下からビールの苦味が現れ、じつにおいしい。
「うまいなー」
「ありがとうございます」
女性バーテンダーは美人だが柔道二段なので気をつけよ。
店を出てタクシーに手を上げホテルへ戻った。
~つづく~

↑JR鶴岡駅前。松尾芭蕉奥の細道・めずらしや 山をいで羽の 初茄子【松尾芭蕉ゆかりの地】鶴岡(山形県鶴岡市)

↑鶴岡の飲み屋街。さほど広くない寂れた雰囲気が酒を最高に旨くする

↑庄内名物【弁慶飯】白いおにぎりをむすんで一回焼いて、味噌を塗ってまた焼いて、さらに青菜漬けを巻いてもう一度焼く。ひとつのおにぎりを三度焼いたもの、それはやっぱり絶品だ

↑藤沢周平ゆかりの地。昼は観光、夜は酒

◆この記事を書いたひと
酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦
東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規7000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。
ブログ「日本の酒場をゆく」↓
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