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下町酒場はしご酒~江戸川のディープな居酒屋巡り

江戸川区の友好都市へぶらり旅② 池波和彦のまいぷれ江戸川区・魅惑の下町酒場#番外編

江戸川区と山形県鶴岡市は友好都市・完結編

翌朝昼前に起きて史跡を歩いた。庄内平野南に位置する鶴岡は、庄内藩十四万石の城下町として250年の長きにわたり、酒井家が統治した。町は城下らしい落ち着きがあり、ときおり道を行く、手拭を顔に巻き、菅笠をかぶってリヤカーを引くもんぺ姿の女性は京都大原の花売りに似て、ゆかしい風景だ。
町中央を流れる内川のせせらぎに映る柳が美しい。鶴園橋、三雪橋、千歳橋と川端を歩いた。あちこちに【藤沢周平 その作品ゆかりの地】の札が立ち、作品の一節を引いてファンの足を止めさせる。この内川は五間川として登場する。
ーー五間川の川岸では、青草の色が一日一日濃さを増し、春の到来は疑いがなかったが、その季節の流れを突然に断ち切るように、日は終日灰いろの雲に隠れ、城下の町町をつめたい北風が吹き抜ける日があった。

おなじみのみずみずしい藤沢調だ。さらに行くと般若寺に来た。ここは「用心棒日月抄・凶刃」に、また映画版「たそがれ清兵衛」にも果たし合いの場として登場する。
よく晴れた青空のもと静かな町歩きは、首筋に当たる風は冷たいけれど気持ちが良い。山から下りてきた人だろうか、歩道の端にゴザを敷き野菜を売っている。
夕方になり繁華街から外れた住宅街の居酒屋(花さき)に入った。

店内はカウンターと入れ込み座敷。女将は艶っぽい中年増。きれいに結い上げた黒髪に着物、白割烹着は、地味にみせて相当よいお召し物。
「おひとつ」と酌する仕草、酒脱な目の配りは粋筋の方のようだ。
女将は言語明瞭に笑って話し、しみじみと東北の居酒屋の良さを味わえる。
料理はすべて非常に良心的で、何を食べてもたいへんおいしい。
〆はおにぎり。
しっかり海苔で巻き固めたのを二つに割ると湯気を上げ、たっぷり入るシャケがうまそうだ。
その熱々を一口。
「うまい!」
女将がにっこり笑った。

夜ふけて昨日のバーで聞いたあるバー(シック)のカウンターに腰を下ろした。
「いらっしゃいませ」
ダンディーなマスターが迎えてくれた。
マスターのオリジナルカクテル「山ぶどうのフレッシュカクテル」がおいしい。
やはり町の気風はあるものだ。学校の集団検診で肺結核と診断された藤沢周平は、鶴岡から東京多摩に転院。右肺上葉、肋骨五本切除の大手術をうけ、24から30歳の男盛りに6年の療養を余儀なくされた。その長い病床生活で、もし退院することができたら文学の道をめざそうと決意する。心ならずも離れてしまった、彼方の故郷をいずれ書こうという想いもあっただろう。地道な暮らしにあっても学問を尊び、武士の気概を保つ。女はそんな夫を信じ、黙ってついてゆく。清冽に心にひびく藤沢文学の根は故郷庄内の気風にあると知った。旅はいいものだ。
「さあ、もう一杯」
手を上げると、マスターがにっこり微笑んだ。

~おわり~

↑鶴岡公園。鶴岡観光におすすめのエリア

↑藤沢周平記念館 藤沢文学に興味がある人は是非

↑鶴岡市街地の風景

↑新潟駅 ~鶴岡駅~ 秋田駅間を白新線・羽越本線経由で運転する特急いなほ・E653系1000番台

◆この記事を書いたひと

酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦

 

東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規7000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。

 

ブログ「日本の酒場をゆく」↓

https://ameblo.jp/m458itmasa/

※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。

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