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下町酒場はしご酒~江戸川のディープな居酒屋巡り

池波和彦のまいぷれ江戸川区・魅惑の下町酒場#番外編

居酒屋の注文のポイントは(粋)に‼

おいらは江戸っ子でぃ!

江戸っ子は旬の走りは迷わず注文!

季節もんてえのは、定番の品書きにおとなしく並んでるようじゃ野暮ってもんだ。
別の紙に、秋刀魚、松茸、殻牡蠣なんて景気よく大書きして、威勢よく貼り出してある。
そういうのを見たら、ぐずぐずしちゃいけねえ。
ためらわずに頼む。
そこに客の心意気が出るってもんよ。

たとえば初夏だ。
「鮎入荷」とあったら、間髪入れずに声をかける。
「鮎、お願いしやす」
すると、ふだんは愛想も見せねえ主人が、急に声を張って
「鮎一丁!」
とくる。
こっちがいいところを突いてきたんで、主人の面にも、してやったりって色が浮かぶ。
走りの鮎を無理して仕入れてきた、まだ少し値は張るが、ぜひ食ってもらいてえ。
そんな店の気っ風が、あの貼り紙には出てるんだ。
それを受けて立つのが客の粋ってもんでさ。

つまり、粋な客ってのは、食いたいから頼むんじゃねえ。
時には、食わなくちゃならねえから頼む。
季節の先っぽを逃さず手繰る。
そこにひとつ、江戸っ子のやせ我慢がある。

鰹だってそうだ。
初鰹と来りゃ、昔から江戸っ子は目の色を変える。
女房を質に入れてもってえ啖呵は、あながち大げさでもあるめえ。
季節の走りを真っ先に口にする。
そいつァ、何より粋な注文なんでい。

あっしは、そういう粋な客になりてえと思う。
居酒屋で過ごす時間が大事なものだからこそ、ただ飲んで食ってじゃつまらねえ。
どうせなら粋にやりてえ。
その心が、いちばんよく出るのが注文だ。
季節を先取りする。
こいつァ酒場じゃ、いちばんわかりやすい心意気だろう。

「あの人ァ、わかってるねえ」
そんなふうに見られてえと、ひとりで胸を張る。
まあ独り相撲に違いねえが、それもまた酒場の楽しみってもんだ。

それから、粋を気取るなら、時には高いものを頼んでみろと言いてえ。
いつ来ても塩辛だの、お新香だの、そればかりじゃあしみったれらあ。
一品でいい。
車海老の活き造りでも、房州の水貝でも、天然松茸の網焼きでも、河豚刺しでもいい。
そういう品を、ことさらに力まず、さらりと頼む。
すると主人は、待ってましたとばかりに張り切る。
店の意地ってものがあるからね。
いいものを置いてはいるが、なかなか頼んでくれる客がいねえ。
そこへ注文が入れば、ようし腕のふるいどころだとなる。
で、その皿に限っては、自分で両手に載せて運んでくる。
あれがまた、たまらなくいい。

金があるわけじゃねえ。
だが、男一匹、たまには景気よく見栄を張ってみるのも悪くねえ。
もうそんなことをしていい年頃だ。
いつまでもしみったれで終わるんじゃ、あまりに味気ねえじゃねえか。

とはいえ、なにも大見得を切るばかりが能じゃねえ。
品書きに慣れてくると、主人がほんとうは頼んでほしそうな品が、だんだん見えてくる。
たとえば、煮穴子は東京月島の味泉。
こはだ酢は東京神田のみますや。
自家製あん肝は東京神田の新八。
貝の浜盛焼は東京神楽坂の酒ト寿。
こういう品は、ただ並んでいるようでいて、じつは店の顔みてえなものなんだ。

初めての店で、品書きをひと通り眺めたあと、すっと閉じて顔を上げる。
そしてひと言、
「煮穴子」
と来た日にゃ、主人も、こいつ何を頼む気だと見ていた目つきが変わる。
お、できる客じゃねえか。
そう思わせたら、まずはこっちの勝ちってもんでい。

↑ニシン塩焼きは燗酒に合わせたい

↑焦げ風味は良いものだ。焼き魚の王者キンキ

↑生きた車エビがあれば絶対

↑トン足煮付けは焼酎と抜群の相性

◆この記事を書いたひと

酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦

 

東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規8000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。

 

ブログ「日本の酒場をゆく」↓

https://ameblo.jp/m458itmasa/

※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。

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